意外な再会
         〜789女子高生シリーズ  


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さて、ここで問題です。

それが毒薬だと思い込み、
憎っくき仇敵の食事へ毎回こそりと“角砂糖”を投入し続け、
結果、相手が寿命を縮めて早死にした場合、
その行為は果たして“殺人罪”として立件出来るのでしょうか?

 「何が言いたいんでしょうか、もーりんさんは。」
 「???」

いや、だからさ。
実は○○区の公会堂という公共施設の敷地内へ、
アポもない身で侵入した輩たちは、
でもでも、
そこって目の前にいる…彼らにとっては怪しい行動を取っていた令嬢の、
別邸か何かだと すっかりめっきり思ってたワケで。
ってことは、個人の所有地でも構うかいという意図はあったって訳だから、
恣意下に於ける不法侵入罪が成立するんじゃあないのかなぁとですね。

 「…いい弁護士が立ったなら、
  現に公共の場だったからそれを問うのは強引すぎると反駁されて、
  行政サイドからも、
  この忙しいのにって書類送検さえ見送られる事案ですよ。」

そんな場合ですかという憤慨込めての投げやりに、
これは佐伯さんがそうとお言葉を差し挟んだのへ、

 「ああーっ、
  そんなこと言ってますが、場合によっちゃあ、
  留置期間が限られてる都合上、
  “とりあえず”不法侵入って罪状で身柄拘束することもあるって、
  聞いたことありますよ?」

思い切り手を挙げての、それっておかしいという反論が出ましたが、

 「……なんでまた、
  おヘイちゃんが言い返しますかね。」

 「だぁってぇvv」

場面転換した途端という いきなり、
微妙な顔合わせで
『行列のできる〜』系の
漫才が繰り広げられてしまいましたが。(なんでやねん)
各種コンサートに演芸の発表会や、
学術関係、市民活動などなどの講演会が催される、
実は市民の皆様の憩いの場。
規模としては小さい方の公会堂を、
どういうからくり使ったか、
ウッドデッキも小じゃれた、欧風の一軒家っぽい外観へ、
あっと言う間に作り替えてしまい。
そこへと乗り入れることで、
尾行して来たらしい胡亂な連中の標的を、
やっぱりあたしたち目当てだったようですねと確認したようなもの。
言わば、わざわざ誘い込んだという、おっかない目論みを成功させちゃった、
こちらの陣営だったりし。
とはいえ、慌ただしくも車外に出た顔触れの中、
そこまでやっちゃうよとの段取りまでは、
一切訊いてなかった、警察関係者の佐伯刑事としましては、

 『待ちなさいって。
  所轄署から応援を呼ぶから、
  それまでは車の中で待機ってことで…。』

頭数は完全に向こうが上で、しかもこっちは三人中、二人が女子高生。
何もわざわざ危険へ身を投じずともと、
あくまでも預かり物のお嬢様たちの身を案じ、
懸命に説き伏せようとする、
極めて常套的な手段に出た征樹殿だったものの、

 「そんな建前を、言ってて良い場合じゃありませんっ。」

ひなげしさんのお返事のその語尾が跳ねたのは、
ええい、この利かん坊さんがと佐伯さんを振り払うためじゃあない。
自分へ伸ばされた腕があったのへ、
いつの間にそんなものを用意したものか、
両端にスーパーボールをしっかと結んだ組み紐を、
ぶんっと鞭のようにして振り出した勢いのせい。
端に結わえたボールの重さが加速を生むので、
怪我をするほどじゃあないながら、
それでもちょっとした棒のように払いのけのための防具にはなるし。

 「あ、こいつっ。痛ててててて……っ。」

振った先で当たったものへとボールがぐるんと巻きつき、
結果として紐が絡み付くので、
そのまま離さず“えいやっ”と引き回せば、
腕を取ったままのひしぎ技へも持ってけるとあって。
取っ捕まえているのはどっちやら、
車のサイドミラーへ反対の端を巻き付けられての、
身動きが取れなくなってたり。
はたまた、捕まったその腕を振り回されて、
大の男が情けない悲鳴を上げたりするその傍らでは、

 「な…、こいつボディガードなのか?」

こちらへもやはり掴みかかろうとした、
一見 作業着や、トレパンの親戚風スポカジもどきといった、
地味ないでたち揃いの男衆らを。
支点の軸足しっかと踏みしめ、
そこへ沿うてた位置からぶんっと、
風を切る音も本格的に、
高々と上がった綺麗な御々脚にて、

 「ぐあっ」「はがっ」「ぐえっ」

腕と言わず腹と言わず顔と言わず、
当たるを幸いの乱れ打ちを浴びせかけ、
押し寄せて来る、文字通りのその出端、
俊敏に華麗に、片っ端から薙ぎ倒しておいでなのが、

 「……。」

寡黙なシューター、且つ、
綺麗な花には棘まるけな紅ばら様こと、
三木コンツェルンの久蔵お嬢様に違いなく。

 「……何か、ああいう格闘ゲームを見たことがあるような。」

打ち合わせを前以てしてあるんじゃないかと思ったほどに、
相手へ踏み込んじゃあ蹴り込む動作にも、
そこから返す動きの、バネの効いた鮮やかな跳躍にも、
一縷の無駄もなければ、失速もしないままという見事さであり。
くるんくるんと旋回しつつの連続技、
二段蹴りや三段蹴りが出たかと思や。
軸足での飛び蹴りのあと、着地した身をひょいと沈ませて、
待ち構えていた奴が殴り掛かって来たのをあっさり躱し、
地に手をついてのバネにして、ぐんと伸び上がりつつ、
両足ごと相手のお顔へ揃えて、側転の足場にしてみたりと。
攻勢の1つ1つがまるで舞踊のようになめらかだったし。
どっちが本職の捕り方なのやら、
凄いねぇと見惚れていた佐伯さんだったものの、

 「相手だってそれなり、場数は踏んでそう、なのにねっ!」

勿論のこと、ただただ感心してばかりもいられないということか。
今度は彼の側が、
先程のひなげしさんよろしく、その語尾を弾ませてしまっており。
拳を繰り出して来た狼藉者をやり過ごすついで、
身を躱したため、すぐ傍らを通り過ぎてった手合いの背中をどんと押し、
たたらを踏みそうになった隙を衝いて、
片手を捕まえ、手慣れた手際で手錠を掛けている。

 「とりあえずだから堪忍ね。」

基本、もう一方は自分の腕へつなぐものだが、
この乱戦ではそんなの自殺行為とばかり、
ドアを開けたことで丁度いい枠となってる車の助手席窓のフレームへ、
キーホルダーへの格納よろしく、ホールドへと持ってゆく。
そんな手際が視野に入って、やっと、

 「マッポか?」
 「まさか…オトリかよ。」

今頃になって、
隠密裏のつもりなら もはや意味ないぞ
警察関係者にまで目論みは知れてるんだぞという
“真相”へ気がついたらしく、
襲撃者らの間に ざわっという浮足立ちの空気が立ったものの、

 「あらイヤだ、逃がしはしませんわよ?」

それをこそ取り戻したがってたはずの、
白いわんこのマスコット。
ひなげしさんが
小さなお手々の上で“ほ〜れ”と軽く放って躍らせて見せれば、

 「あ、てめっ。」
 「それを渡せっ!」

さすが、数日がかりで集中していたブツへの反応。
あっさり釣られた何人かが前へと手を延べ、
寄越せ寄越せと殺到したのへ、

 「…哈っ!」

いらっしゃいませ、若しくは“葬(ほうむ)らんっ”とばかり。
一応は“護身用”なのでと
弾力性をつけ破壊力をセーブしてある特殊警棒が、
紅ばらさんの両の手になる美しいフォームにて、横薙ぎにぶんっと振り切られ。
第一波では足元を払われ、
どひゃあ痛いぞ痛いと前のめりに転びまくり。
それでも踏ん張り、転ばなかったクチへは、
よ〜く しなったスライド警棒による
ナイススィング再びで、後方から尻への強打が襲って……ゲームセット。

 「全員撃沈ですね。」
 「………。(頷、頷)」

うららかな日の下、砂ぼこりも多少以上は立ったその中で、
若い衆やおじさんたち10人近くを相手の乱闘を
鮮やかに制して“どんなもんだい”と満足げに胸を張る。
相変わらずに困ったお嬢さんたちの、
満足そうな勇姿への賛歌のように。
やっとのことで駆けつけんとしているパトカーの、
サイレンの音が幾重にも重なりながら集まりつつあり。
それを追ってか、それとも先にこっちの騒ぎを聞き付けてのそれか、
野次馬らしき人影も少しは集まりつつある中を、

 「……久蔵殿、ヘイさんっ! 無事ですかっ。」

一等賞で駆けつけたセダンから、
停まるのももどかしいとの急ぎようにて降り立ったのが、
金の髪した、これまた愛らしい美少女だったため。
続いて駆けつけた警察官から、入らぬようにと制された人々の間からは
“おおーっ”という秘そやかなどよめきも上がったが、

   そんなことよりもずんと、
   当事者の皆様には大いに印象的だったのが

乱闘のただ中にあっては、
文字通りの黙々と、その痩躯を躍動させ続け。
乱闘舞踊という一種のパフォーマンスの如き、
無駄なく隙なく脇目も振らず、
鋭い蹴り技と、特殊警棒による打撃技とで、
狼藉者らを畳み続けた、
紅目も不吉な
凶悪極まりない死神か悪魔のようだった片やのお嬢様が、

 「シチっ!」

お友達がかけたお声一つで、
切り裂くような険しさが拭われてのこと、
一気に赤いお眸々のウサギさんになってしまう辺り。

 “どんな魔法なんでしょうかねぇ。”

足元近くに垂れ込めているのは決して春霞じゃあないし、
累々と倒れているのだって、無情の風に散らされた花びらなんかじゃあない。
どう見たって乱闘騒ぎがあったのは明白、
そしてそれらを生み出したのは、
間違いなくこちらの…白皙の美貌も玲瓏透徹、
冴えた美貌をたたえておいでの、
腰を覆うジャケットの裾と
とっつかっつな丈のミニスカートへ、デニンズを重ねた…って、あれれぇ?

 「久蔵殿、着替えてたのですね。
  よかった、あのままの格好じゃあ、身動き取れませんものね。」
 「………。(頷、頷)」

真っ先に案じたのはそこですかと、
猛獣使いさんの側も いい勝負の天然じゃあありませんかと、
やや呆れたひなげしさんはともかくとして。

 「詐欺ですよね、あの変貌っぷりって。」
 「だよねぇ。」

どこの誰が、あんな愛らしい令嬢捕まえて、
恐持てを相手に凶暴にも暴れ回ってた張本人だと思いましょうかと。
傍観者になって見守っていた平八と佐伯刑事だったのへ、

 「こちらも方はついたようだの。」

薙ぎ倒されてたお歴々が、
ほれ立った立ったとそのまま連行されてゆくのとすれ違いつつ、
今やっと駆けつけて下さった
蓬髪にスーツという、判じ物のような存在の島田警部補であり。
余裕の態度はいつものことながら、
こちらにて繰り広げられたのは、
彼にはお馴染みでも自分では到底制すことが叶わなかった、
異色にしてダイナミックな乱闘騒ぎ。
あああ、実況検分とか調書とか、
面倒な段取りになるのかなぁと、今から憂鬱を感じておいでの佐伯殿。
ふと…気がついたことがあってと、こそり上司殿へ囁いたのが、

 「勘兵衛様、最近のリップクリームってのは色つきなんですよ?」
 「お、そうか?」

お行儀がいいとは言えぬこと、
自身の手を持ち上げると、その甲を口元へ軽く当てかけたのへ、

 「……勘兵衛様。////////」

肘あたりを咄嗟に掴み、そのまま拭わせまいとしたのが、
頬を真っ赤にした七郎次お嬢様ならば、

 「ほほお、そういうことをなさるお暇はあったんですね。」

こちとら昔むかしの、
何かあった翌朝の誰かさんの潤んだ目許だ何だには、
見覚えがたんとあった身ですから、と。
引っ掻き回された征樹殿、ちょっとした意趣返しをしちゃったりしてねvv
とりあえず、
ほんの1日でこうまでの騒動になってしまった
相変わらずの彼女らだったようでございまし。
怪しい輩の真の目的と 後日談とは、次の章へ続くvv










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  *何だこの〆はという“なし崩しエンド”ですいません。
   と言いますか、何でこんなに乱闘シーンが
   生き生きと長くなっちゃったのか。
   書く人の素地でしょうかねぇ?
   


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